知る/観る
昔ながらの製紙所が集まる大滝地区にある、国指定名勝 三田村氏庭園。庭園を所有する三田村家は中世以来、紙漉きを生業とし、当時この地域の紙生産と販売に関する権益や地位を独占。同家には歴史的に貴重な資料が数多く残されており、庭園もその象徴といえる。築山や滝石組み、中島などからなる池泉庭園は和紙取引の繁栄ぶりに加え、江戸や京都の庭園文化の影響も伺える。現在の庭園は、1871年(明治4年)の写本とされる彩色鳥瞰図に描かれたものとほぼ同じであり、幕末の状態を継承していることもわかっている。
長きにわたる保存、継承に驚く一方で、三田村家39代当主、三田村士郎さんは意外な言葉を口にする。先代からの庭の説明は、「良い庭だから残している」という言葉くらいだったとか。
「庭園の歴史的価値を認識したのは20代で当主になってから。急逝した先代の跡を継いで以降、古文書を紐解き、庭に詳しい方の話を聞くなどして知ることができました」
庭園の価値を知ることは、三田村家の栄枯盛衰を知ることにもつながる。江戸時代、幕府御用紙を納める確固たる地位から、明治政府発足でその地位が消滅。太政官発行の金札用紙を納めたがこれまでの繁栄は陰を潜め、経営難の状態に陥ったという。
「経営が順調なままなら庭師が手入れをし、風景も変わっていったでしょう。しかし、当時は庭師に依頼する金銭的余裕がなくそのまま“放置”。その結果、昔のまま“維持”されることになったのです」
三田村さんの口ぶりからは、歴史に翻弄された家業と庭園、困難に立ち向かい乗り切っていった先祖(36代目)への回顧が、面白いと感じているようにも見える。
放置されていたとはいえ、日々の掃除や降雪前の雪吊りは家人で行われ、家業も継続されている。そして三田村さん自身、年齢を経た昨今、「良い庭だから残している」という先代の言葉通り、庭園の良さや眺めの素晴らしさを実感するようになった。
「多くの方に庭の素晴らしさを実感いただけることは庭園当主として嬉しく、誇らしいですね」
先代の言葉は三田村さんの心身に刷り込まれ、庭園を維持・継承する決意へとつながった。そしてこの想いは越前和紙の歴史とともに、次世代にも伝えられていくはずである。
文:笹島美由起
Text/Miyuki Sasajima