知る/買う
三崎タンス店の創業は1865年(慶応元年)。指物師、塗師屋として歴史を重ね、武生(現越前市)最古の住宅地図「越前国武生市街地分間図」(1875年)にも記載され、その歴史にふさわしく店(旧館)は「福井県指定ふくいの伝統的民家」登録されている。
現在、その8代目が三崎俊幸さんだ。歴史や伝統を重圧に感じる人も多い中で、三崎さんは「由緒があり、世間からの信用や代々伝わる顧客まで受け継げることは、本当にありがたいと思っています」と言い切る。だからこそ、お客の目を見て話すコミュニケーションを大切にする。これまでもさまざまなことに取り組んできたが、最終的にたどり着いたスタイルが店での対面販売だという。ホームページでもネット販売はあえてせず、店の存在を知ってもらい、来店いただくための情報発信として活用している。三崎さんは現在も店の2階に居を構える。1階の店舗には座敷があり、我が家のような温かみが感じられる。そこに身を置くと初めてお会いするのにリラックスして話せるから不思議だ。
「これからは『物を買う』だけでなく、越前箪笥を生んだ越前市の風景やまちなみも楽しんでもらえる、ツーリズム型にできたらと思っています。実際に家具が作られている現場の空気感や雰囲気、そしてじっくり話をして、いいものが手にできたなと思っていただけると嬉しいですよね」と笑顔で話す。
一枚板のテーブルも得意とする三崎さんは、材料も大半を商品化までに数年を要する生木から仕入れ、乾燥、反りの修正など手をかける。手塩にかけた銘木を、お客の声に寄り添い納得の家具に仕上げていく。その技の原点は店に展示されている「越前箪笥」である。
「先祖が作った150年伝わる越前箪笥が手本です。その技術は世界でも引けを取らないと確信しています。テーブルやソファなども作りますが、脚部分は釘を使わないほぞ組み技術という箪笥づくりの技法を使っています。作るものは変わっても伝統的な技術は残していきたいですね」
今の時代、流れが早すぎて時代に迎合するのは難しい。ならば古きを知り伝統を尊び、お客と向き合い新しきを知る。好きな言葉「温故知新」が、次の時代につながると三崎さんは肌で感じている。
文:友廣みどり
Text / Midori Tomohiro