2025年9月、2日間にわたり、福井県越前市にて、企業の経営層や各部門のリーダーを対象とした「企業向け研修プログラム」が開催されました。参加したのは、食品メーカーのCEOや、人事部責任者の部長、マーケティング推進部長、システム開発メーカーの経営戦略部長など、業界も職種も異なる精鋭たちです。
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現代のビジネスシーンにおいて、先行き不透明な時代を勝ち抜くためには、単なるスキルの習得だけでは不十分です。求められているのは、自分たちの原点を見つめ直し、守るべきものと変えるべきものを峻別する「哲学」と「実行力」に他なりません。
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700年以上にわたり、火を絶やさず、技を磨き続けてきた「越前打刃物」。その産地には、効率化やデジタル化の波に揉まれながらも、世界に通用するブランドを築き上げた職人たちの「知恵」が凝縮されています。本研修は、その本質を肌で感じ、自社の組織運営やリーダーシップに活かすための濃密な時間となりました。
越前の玄関口「越前たけふ駅」からスタート
研修の幕開けは、2024年に開業したばかりの北陸新幹線「越前たけふ駅」でした。移動手段の進化は、地方都市と都市部をダイレクトに結び、伝統産業への距離を一気に縮めました。
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参加者たちは、まず「道の駅 越前たけふ」での昼食とアイスブレイクを通じて、この地に流れる空気感と、これから始まるプログラムへの期待を共有しました。
最初に向かったのは、越前打刃物の象徴とも言える共同工房「タケフナイフビレッジ」です。ここは、複数の刃物メーカーがひとつの屋根の下で切磋琢磨し、共通のショールームや工房を運営しています。
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食品メーカーのCEOであるHさんは、この仕組みに強い関心を示しました。「通常、同業他社は競合となりますが、ここでは『産地全体を盛り上げる』という共通の目的のもと、技術や情報を共有している。一社がどんなに声を上げても届かない場所へ、集まることで到達する。この集約によるメリットと、かつて博多の明太子が、創業者が作り方を周囲に教えることで文化として定着したエピソードを重ね合わせ、業界全体でパイを広げる重要性を再確認しました」と語ります。
タケフナイフビレッジでは、約2時間半をかけて、産地の神髄に触れる一連のプログラムが行われました。まずは工房の見学から始まり、職人たちが真剣な眼差しで鉄と向き合う熱気を感じ取ります。続いて行われた「鍛造体験」では、参加者自身が真っ赤に熱せられた鉄をハンマーで叩き、形を変えていく工程に挑戦しました。
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「火花が散る熱気、鉄を叩く重厚な音。普段のデスクワークでは味わえない、五感すべてをフル活用する体験は、ものづくりの原点を感じさせてくれました」と語るのは、マーケティング推進部長のHさん。
「今の仕事では味覚や嗅覚を主に使いますが、音や手応えといった全身で感じるリアリティは、自分たちの仕事に対する姿勢を根本から見つめ直す刺激になりました」と、その手触り感のある学びを強調しました。
そして、このプログラムの締めくくりとして、伝統工芸士の加茂勝康氏との対話が行われました。
【プロフィール】加茂 勝康(かも かつやす)氏 伝統工芸士、タケフナイフビレッジ協同組合 元理事長。
越前打刃物の産地が存続の危機に瀕した1970年代、若手職人グループの一員として、共同工房「タケフナイフビレッジ」の設立に尽力。個々の職人の垣根を越えた「共創」の仕組みを築き上げ、伝統技術の継承と現代のニーズに合わせた革新を牽引し続けている。
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かつて産地が存続の危機に瀕した際、加茂さんたちは「個々の看板だけではなく、一丸となって未来を創る」という、当時としては画期的な決断をされました。
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不屈の精神と、刃物への深い愛情について語る加茂さんの言葉は、参加者たちの胸を熱くしました。「伝統を守るために、常に新しい風を自ら取り入れる」という職人の覚悟。それは、組織を率いるリーダーたちにとって、変革の時代を生き抜くための大きな示唆となりました。
刃物に込められた「ロマン」を感じる
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続いて一行が訪れたのは、卓越した技術と美しいデザインで世界的に知られる「龍泉刃物」です。ここでは、代表取締役会長の増谷浩司氏へのインタビューが行われました。
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【プロフィール】増谷 浩司(ますたに こうじ)氏 株式会社龍泉刃物 代表取締役会長。越前打刃物の伝統技法をベースに、独創的なデザインと圧倒的な切れ味を両立させた製品開発を行い、世界的なブランドへと成長させる。機能性だけでなく、使う人が愛着とロマンを感じる「ものづくり」を追求し、国内外のプロの料理人から一般の愛好家まで、幅広い層を魅了する製品を世に送り出している。
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増谷会長が語るのは、単に「切れる」だけではない、使う人が喜びを感じ、一生大切にしたくなるような刃物づくりのこだわりです。人事部長のOさんは、「最初は歴史の勉強のつもりでしたが、お話を聞くうちにその美しさと情熱に魅了され、最後には『自分もこの刃物が欲しい』と心から思っていました。機能を超えた『ロマン』が顧客を動かす。最強のブランディングを目の当たりにした思いです」と語りました。
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システム開発会社の経営戦略部長、Tさんは、越前という土地の力に注目しました。「山に囲まれた土地だからこそ、外の世界に自分たちの存在を示すために、より強い力で前に進んできたのではないか。現場で職人たちが世代を超えて協力し合う姿は、弊社のエンジニアたちにもぜひ見せたい光景です」と、土地の精神性が組織の活性化に与える影響について考察を深めました。
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研修2日目は、場所を移してのワークショップからスタートしました。
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ここでは、初日に職人たちから受け取ったメッセージを、どうやって自分たちの会社や組織運営に翻訳するか、集中的な話し合いが行われました。仕出し弁当を囲みながらのひとときも、議論は非常に熱を帯びたものとなりました。
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「職人のようなプライドとこだわりを、どうやってチーム全体に浸透させるか?」「産地全体で共創する知恵を、自社のビジネスモデルにどう取り入れるか?」といった具体的な問いに対し、立場の異なるリーダーたちが意見をぶつけ合いました。
2日間にわたって、越前のマテリアルとその生まれる現場をめぐった参加者たち。旅の最後に、今回の体験を振り返って感想を伺いました。
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「それぞれに強い個性を持った作り手の方々と出会えたことがとても刺激的でした。越前は、企業経営や組織づくりに関わる者にとって、まさに“楽しめる場所”だと実感しました」
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とりわけ印象に残ったのは、実際の現場で素材が生まれる瞬間を目の当たりにしたことです。「 カタログやサンプルで見るだけではわからないことが、現場を訪れることで一気に解像度が上がります。特に刃物は、切れ味といった機能性以上に、その背景にある職人の生き方や物語に惹きつけられました。職人自身では伝えきれない魅力や見せ方がある。そういった価値を外に届けていくことも、私たちの役割だと思えました」
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素材にふれ、作り手と語らい、ものづくりを知る。その体験の中から、新たな発想が次々に浮かんできた様子の参加者たち。越前の素材を一堂に体感できる場や、宿泊しながら素材と空間を味わえる施設など、これからの社内研修や新規事業のアイデアにもつながる気づきがいくつもあったようです。
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旅の締めくくりにふさわしい静かな余韻の中で、参加者たちは改めて、越前のものづくりが持つ奥深い力を、肌で感じ取っているようでした。
今回の研修を終え、参加者たちは清々しい表情で帰路につきました。彼らが持ち帰ったのは、単なる知識ではなく、明日からまた頑張ろうと思える「心の糧」です。
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食品メーカー経営者 Hさん:「 みんなで力を合わせる大切さ」を再確認し、より良い業界づくりを目指す決意をされました。
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人事責任者 Oさん:「 働く人の情熱」こそが最高の価値を生むことを学び、社内の雰囲気づくりに活かしたいと話されました。
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マーケティング担当 Hさん:「 本物の体験」が生む感動を、お客様に届ける新しいサービスに繋げたいと意欲的でした。
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経営戦略担当 Tさん: 職人の「挑戦する姿勢」を、若手社員の育成に役立てるビジョンを描かれました。
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今回企画したこのプログラムは、地域の伝統が、現代の企業にとっても「進むべき道を照らす光」になることを証明してくれました。
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越前で研ぎ澄まされたその想いは、参加者それぞれの現場で、困難を鮮やかに切り拓く力となっていくことでしょう。