日本で唯一の技を継承する越前鎌(episode 6)

越前鎌 section1
越前市の伝統的工芸品、「越前打刃物」というと鍛造された包丁を思い浮かべる人も多い。しかし、包丁より先につくられていたのは、実は「越前鎌」と呼ばれる農作業用の鎌だった。
鎌は今でこそあまり馴染みがないかもしれないが、雑草刈りや稲刈り、家庭菜園など、実は幅広いシーンで活躍する道具の一つなのだ。
鎌は今でこそあまり馴染みがないかもしれないが、雑草刈りや稲刈り、家庭菜園など、実は幅広いシーンで活躍する道具の一つなのだ。
そんな農作業には欠かせない越前の鎌について紐といていこう。
鎌行商人 section2
刀匠の技術でつくられた越前鎌
越前鎌の生産が始まったのは鎌倉時代。京都の刀匠千代鶴国安が名剣を鍛える水を求めて越前に留まり、刀剣をつくる傍ら、鎌も製作するようになったのが起源とされている。
江戸時代になると、各領主が農林業の保護育成を強化し田畑の総面積が拡大。それによって農機具が大量に生産されるようになり、越前鎌も各地に移出されるようになった。
その普及に重要な役割を果たしたのが鎌行商人だ。
鎌行商人 section2
漆かき職人 section3
漆かきによって全国各地に浸透
越前鎌の販売は、現在の越前市にあたる府中武生に住んでいた商人たちによって行われた。 鎌行商人は、もともと漆から流れ出る液汁を採集する「漆かき職人」が多く、越前漆器の産地である河和田(鯖江市内)をはじめ、池田町、現在の今立地区の山村の農民が、全国各地に漆かきとして出稼ぎをしていた。
漆かきが出稼ぎにでるときに必ず持って行ったのが、越前鎌だ。刀匠の製作で培った高度な技術により、抜群の切れ味と堅牢さを誇る。漆かき職人は仕事にこの鎌を利用すると同時に、雨天で漆かきの仕事が休みの時は、持って来た越前鎌を近くの山村の人達に売り広め、その土地柄に応じた鎌の注文を持ち帰ったのだ。
明治に入ると安価な中国産の漆液が輸入されるようになり、日本産の漆が売れなくなると、漆かき職人のなかには鎌の行商に転職する者が増えたそう。鎌の生産量も減少したが、それでも昭和初期までは全国の鎌の生産量のうち、大部分が越前で生産されるなど、越前打刃物の産地は安定した道を歩んできた。
カトウ打刃物製作所 section4
昔ならではの製法でつくり続ける越前鎌
戦後、高度経済成長時代の突入によって農業の機械化が一気に進み、越前打刃物の生産も鎌から包丁やナイフにシフトしていく。
今では越前鎌をつくる工房はすっかり減ってしまったが、それでも越前市には古くから続く技法でつくり続けている工房がある。
タケフナイフビレッジと越前市街地に工房を持つ「カトウ打刃物製作所」だ。
3代にわたり、鍛造による包丁を生産しているが、なかでも稲刈りなどの農作業に使われる鋸鎌(のこがま)の製法は、日本中の産地を探しても、カトウ打刃物製作所だけしか継承されていない特殊な技術なのだ。
鋸鎌といえば、名前の通りギザギザした刃が特徴だ。海外製などの多くの鎌は機械で鋼を型抜きしてつくるが、カトウ打刃物製作所では「目切り」と呼ばれる方法で一つひとつ手作業で目をつけていく。
▲鋼を機械の溝に押し当て、目をつけていく
そして、ギザギザの目を鋭くしていくのが「目立て」。ヤスリで丁寧に一つ一つの目を研ぐ作業は緻密で、大変手間がかかる。
▲シャッシャッとヤスリで研ぐ音が工房に響き渡る
目立てした鎌は800℃前後の火で高温にし、水で一気に冷やす事で硬度を出す。このような工程を経てつくられた鎌は薄い刃にもかかわらず丈夫だ。
通常、鋸鎌は1年ごとに取り換える。稲刈りなどで毎日酷使していると、なかには収穫シーズンが終わるのを待たずに刃がボロボロになってしまうものもあるそうだが、カトウ打刃物製作所の鋸鎌は、その年の収穫が終わるまで切れ味が衰えることはない。
「手作業で目立てをすると、目の山が長いものや短いものなど微妙に長さが違ってくるんやね。だから、使っていくうちに長い目がすり減っても、短い目はまだ鋭いままやから、長い間切れ味が保つようになっているんよ」
と教えてくれたのは、カトウ打刃物製作所で越前鎌をつくり続ける加藤さん。
▲20年以上、越前鎌をつくりつづける加藤さん。頑固な職人のイメージとはかけ離れた優しい笑顔がチャームポイントだ
手作業でつくるメリットは、切れ味のほかにもある。
使う人の用途に合わせた特殊な鎌もつくることができるのだ。
鎌には稲刈り用のほかにも、草取りをする時の土に入る角度にこだわった「草取り鎌」や柄の長さによって収穫の頃合いもわかる「アスパラ鎌」などさまざまな種類がある。しかし、刃の目が通常と逆向きになっている「らっきょう鎌」や「左利き用の鎌」は、手作業の目切りでしかつくることができない。
「なんでこんな大変なことを続けているんやろうって思うこともありますよ(笑)。でも、やっぱり手をかけてつくる鎌は味があっていいんです」
と笑う加藤さん。
どんなに機械化が進んでも、農機が入ることのできない小さな田畑や家庭菜園では、今でも鎌が重宝される。手に馴染むバランスの良さや、ストレスをかけずに刈り取れる切れ味など、一度使うと、その使いやすさに手放せなくなるという人も多い。
長年受け継がれてきた技術で愛情込めて目立てした越前鎌は、これからも農家の頼れるパートナーとして全国各地の田畑で活躍するだろう。
<参考文献>
『槌の音 越前武生の打刃物』(斎藤嘉造/槌の音 越前武生の打刃物刊行会)
文:石原藍
Text / Ai Ishihara
カトウ打刃物製作所 section4
  • インフォメーション
名称

株式会社 カトウ打刃物製作所

住所
(鎌部門)福井県越前市武生柳町8-21
電話
0778-22-2863
HP
http://www.kato-knife-mfg.jp/