食べる人を虜にする「中華そば」の魅力とは(episode 16)

中華そば section1
食べる人を虜にする「中華そば」は、
知る人ぞ知る越前市のレガシーだった
越前市のグルメといえば、全国的にも越前おろしそばの知名度が高いが、実は「中華そば」も知られざる名物の一つだ。
いわゆる中華料理店やラーメン店で出されるものとは少し違う。蕎麦屋や大衆食堂にある「中華そば」と書かれたメニューであることがポイントだ。
JR武生駅の周辺には20店舗近く「中華そば」を出す店があり、別名「たけふ駅前中華そば」とも呼ばれている。
あっさりとした透き通ったスープはお酒を飲んだあとの〆としても絶品。
越前市では「温盛(ぬくもり)一杯 中華Men’s」と呼ばれる有志の団体も生まれるほど、ひそかな盛り上がりを見せているのだ。
一体、「中華そば」の何が多くの人を魅了するのだろうか。
特別メニュー section2
中華そばは外食の楽しみだった
「中華そば」のルーツとなる麺料理が中国から日本に入ってきたのは、明治の終わり頃。当時は「南京そば」や「支那そば」と呼ばれていたが、もともと蕎麦やうどん文化のあった日本ではあっという間にその味が浸透し、大正時代には「中華そば」として全国的に広まっていった。
JR武生駅から車で約5分の場所にある「うどん坊 山むろ」もその一つ。
大正2(1912)年に創業し、100年もの間多くの人の胃袋を満たしてきた。越前おろしそばやうどん、丼ものに加え、「中華そば」も昔からあるメニューだ。
▲赤いのれんが目を引く
「昔は『蕎麦屋』って名乗る店は少なかったの。蕎麦はここら辺の畑に行けばいつでもとれる。どこの家庭でも保存食や非常食として備蓄できるくらい頻繁に食べていたから、わざわざ外に食べにいくようなものじゃなかったんやね。うどんや中華そばの方がよっぽど珍しかった」
と語るのは、店主の佐々木哲男さん。祖父の代から続く三代目だ。
▲佐々木さん。60歳まで伝統芸能をしていたことから立ち振る舞いが美しい
今のようにスーパーやコンビニエンスストアもない時代。蕎麦以外の生麺を売っている場所は少なく、わざわざ家庭で製麺するのも手間だった。そのため、中華そばは外食でしか食べることのできない特別なメニューだったのだ。
「このあたりは昔、官公庁が立ち並んでいた霞ヶ関のような場所でね、出前も多かった。看板にはその店の名物を書いてアピールしてたんやよ。だからうちも店にも『中華そば』って書かれた大きな看板があったのを覚えてるなぁ」
▲今から60年以上昔の「山むろ」の写真。「官公庁御用達」の掲げられた横断幕に「中華そば」と書かれた看板が見える
昭和30年代には即席麺ブームとなり、そこから「ラーメン」という呼び名が全国に浸透していった。現在に至るまで、とんこつやみそなどさまざまな種類のラーメンが誕生しているが、越前市ではなぜ「中華そば」の方が市民権を得ているのだろうか。
特別メニュー section2
蕎麦つゆと
自家製チャーシュー
section3
食べる人を虜にするスープ
ラーメンのスープは、焼き豚の煮汁や醤油・みりんなどでつくった“かえし”に豚バラや鶏ガラを炊いたガラスープを注ぐのが基本的なつくり方だが、越前市の「中華そば」は、“かえし”ではなく、蕎麦つゆを使うのだ。
「ここらへんの食堂は蕎麦やうどんをつくるために、毎日必ずかつおや昆布でとった出汁を仕込むんよ。その出汁でつくった蕎麦つゆに鶏ガラなどでとったガラスープをいれるから、味の土台がラーメンとは違うんやね」
お目当ての中華そばが運ばれてくる。テーブルに置かれた瞬間に鼻孔を満たす香りが、食欲を刺激する。
中華そばの具はネギにメンマ、かまぼこ、そしてチャーシュー。この辺りの「中華そば」はチャーシューの代わりに昔ながらのハムをのせている店も多いが、佐々木さんは丸1日かけてチャーシューを仕込む。
▲山むろの「中華そば」
ふと思い出す味 section4
毎日でも食べたい、どこか懐かしい味
「ひと口スープをいただくと、たしかにラーメンとは違う上品ですっきりした味わいに驚く。 ほどよい太さの麺にからめて食べ進めるうちに、動物系のコクもにわかに感じられ、複雑で奥行きのある味わいがさらに増していく。
そして、このチャーシューのやわらかいこと。余分な脂を落とした上にじっくり煮込んでいるせいか、驚くほどなめらかなのだ。
▲「中華そばは意外に手間と時間がかかるんよ。でも食べに来てくれる人がいる限りやめられんね」と佐々木さん
「ラーメンは毎日食べると飽きるかもしれないけど、この中華そばは毎日でも飽きないんや。味噌汁と同じ、出汁がベースやから毎日でも飲めるし、どこか懐かしい味がするんやと思う」  
実際、山むろの「中華そば」は昔からのファンが多く、この味を求めて滋賀や愛知から毎月必ず食べに来る人もいるそうだ。
昆布とかつおの旨みがしみ込む慣れ親しんだ味のスープは、どんな時もじんわりとやさしく胃袋を満たしていく。はじめて食べるのにどこか懐かしく、一度食べたらまた食べたくなる、そんな越前市の「中華そば」は、これから先もずっと残していきたい食のレガシーといえるだろう。ぜひいろんな店をめぐって、お気に入りの一杯を見つけてほしい。
文:石原藍
Text / Ai Ishihara
ふと思い出す味 section4
  • インフォメーション
名称

うどん坊 山むろ

住所
福井県越前市神明町1-8
電話
0778-22-0699
HP
http://www.takefu.com/